お金と労働と地球株

~無能が30代で資産1億円を達成した方法~

1. 現代のお金

1-2. 【参考】預金の発行プロセス

預金はただの数字なので原理的にいくらでも発行可能ですが、日本を含めた先進国の多くは預金の発行に一応の縛りを設けています。 それが「準備預金制度」で、預金(=貸し出したお金)に対する一定割合のお金を中央銀行に預ける、というものです。 以下、本制度を前提とした預金発行プロセスの詳細を見ていきます。

【補足】準備預金制度と預金創造をごちゃまぜにしている解説が多く見られますが、準備預金制度は預金創造に必須の仕組みではありません。 預金創造自体は、貸出で預金が生まれる、というだけのものです。 実際に準備預金制度なしで預金創造を行っている国も複数あります。 その辺りの正しい説明については、イングランド銀行の四季報が優れています。 (参照:現代経済における貨幣創造(Money creation in the modern economy)

【ステップ1】
 お金の利用者である誰かが民間銀行に対して借入の申し込みを行います。 ここでは、企業が100万円を借りたいとします。 すべてのプロセスはここからスタートします。

【ステップ2】
 民間銀行はこの案件を審査し、問題がなければ融資(貸出)を行います。 このとき、預金創造によって100万円分の新たな預金が発生します。 ここまでは民間銀行と企業のみのやり取りであり、まだ中央銀行は登場しません。

【ステップ3】
 民間銀行は貸し出したお金に対する一定割合の現金を「(民間)銀行のための銀行」である中央銀行に預けます。 これが準備預金制度であり、この割合を準備率と言います。 仮に準備率が1%である場合(日本の準備率は概ね1%弱)、この例では 1万円(100万円×1%)の現金を中央銀行に預け入れます。

【補足】実際には貸出の度に現金を預け入れるわけではありません。 自行の一定期間の預金残高(負債)に基づいて、中央銀行に預け入れるべき一定割合の預金(こちらは資産)を常に確保しておくように努めます。

【ステップ4】
 中央銀行は預け入れられた1万円分の現金の代わりに、同額の預金を発行します。 民間銀行が中央銀行に持っているこの預金のことを「準備預金」と言います。 準備預金は中央銀行のみが発行できる「お金の発行者」専用のお金であり、私たち「お金の利用者」は利用できません。 私たちが用いる預金とは全く別の種類のお金です。 これにより、民間銀行は準備預金制度のルールどおりに一定の準備預金を確保します。

以上で一連の預金発行プロセスが完了します。 ステップ2と3の順番に注意してください。 民間銀行はまず貸出を行い、その後で中央銀行に一定割合の現金を預け入れます。 マクロ経済学のテキスト含め、預金創造と準備預金制度に関する説明のほとんどはこれを逆に解説しており、間違っています。

ところで、このような仕組みはいつどこで生まれたのでしょうか。 その起源は、17世紀のイギリスです。 もともと、お金は長らくゴールド(主に金貨)でした(参照:1-11. 【参考】お金の機能喪失)。 しかし、金貨は量が多いと持ち運びに不便であり、また自分で管理すると盗難の危険がありました。 このような不便や危険を解消すべく、1650年代のイギリスで、ゴールドを預かる業者(金細工師)が現れました。 彼らは顧客からゴールドを預かり、預かり証(金匠手形)を発行しました。

その預かり証が流通し、取引に使われるようになり、さもゴールドそのもののように働きました。 預かり証は、いわばゴールドとの交換券なので、ゴールドと同等の信用があり、しかも軽くて便利というわけです。 世界初の紙幣は10世紀に中国で発行されましたが、現在の紙幣の先祖は中国のそれではありません。 イギリスのこのゴールド預かり証こそが、現代の紙幣の先祖です。

しばらくして金細工師は、顧客がゴールドを引き出すことは滅多にない、という点に着目し、ズルをするようになりました。 預かっていないゴールド分の預かり証をも発行して儲けるようになったのです。 これは詐欺行為ですが、結果として、本来のゴールドの量を超える分のお金(預かり証)を生み出すことができるようになりました。 この方法が、現代の通貨制度、つまりお金を作り出す仕組みの元祖であり、また、彼ら金細工師こそ現代の銀行の先祖といえます。

当時、王ではなく民間の金細工師がお金を無制限に作り出せたのと同じく、現在では民間銀行が事実上無制限にお金を作り出せます。 かつて多くの化学者が錬金術で本物のゴールドを作ろうと試みましたが、すべて失敗しました。 一方で、化学者とはまったく異なる人たちが、ゴールドの代わりにお金を無尽蔵に増やす錬金術を完成させました。 この錬金術は、現代ではより洗練された形で実践されています。

話を戻します。 日本では準備預金を一般に「日銀当座預金」と言います。 また、準備預金と現金を合わせて「ベースマネー」と言います。 デフレ脱却に関する議論で「せっかく日銀当座預金が増えても銀行はこれを貸出に回さない」と言う人がいます。 彼らには準備預金と、私たちが用いる預金との区別がついていません。 使わないのではなく、準備預金は貸出には使えないのです。 それ以前に、そもそも銀行は手持ちのお金を貸すのではなく、逆に貸出で預金を作り出します(参照:1-1. お金が生まれるとき)。

マクロ経済学の教科書には「ベースマネーを増やせば、その何倍かのお金が市中に流れる」と書いてあります。 しかし、これは上記のプロセスを全く逆に捉えており、間違っています。 最近、日本ではデフレ脱却のために民間部門のお金を増やそうと、政府主導で日銀にベースマネーを大量に発行させました。 その結果どうなったかというと、民間部門のお金はほとんど増えませんでした。 これはまさに、誤解(プロセスを逆に捉えている)に基づいた失政です。

ベースマネーが民間部門の預金を増やすのではありません。 預金発行のプロセスは、最初に「お金を借りたい」という人がいなければ何も始まりません。 まず「お金の利用者」側でお金を借りたいという需要があり、それに応じて民間銀行が貸出を通じて預金を発生させます。 その後で一定割合のベースマネー(準備預金)が必要とされる、というのが実際のプロセスです。


お金と労働と地球株

1. 現代のお金

1-2. 【参考】預金の発行プロセス