お金と労働と地球株

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2. ピンハネシステム

2-7. 労働のピンハネ

現代の労働者の大部分は株式会社に勤める会社員です。 資本主義とは、資本家が労働者の労働をピンハネする仕組みです。 そして株式会社は、この資本主義の仕様を実現するツールです。 資本家が株主、労働者が会社員に相当します。 本節では、株主がどのように株式会社を介して会社員の労働をピンハネしているのか、そのメカニズムを見ていきます。

私たち労働者は一般に会社員(会社の従業員)として働き、給料を得ることで生計を立てます。 では、会社員が会社に提供する労働と、会社が会社員に提供する給料は釣り合いが取れているでしょうか。 両者は実際には釣り合っておらず、会社員は給料以上に働くことを求められます。 つまり原理的に「労働>給料」の関係になり、これは当たり前のことと考えられています。 なぜなら、そうでなければ会社は会社員を雇う意味が無いからです。 前述のとおり、会社とは利益を出すことを目的とした組織です(参照:2-6. 株式会社の働き)。 そのための手段として会社員を雇うのですから、会社は会社員に労働以上の給料を支払う訳がなく、そんなことをしていたら会社が潰れてしまいます。

このことを、会社と会社員それぞれの立場でバランシートを使って検討してみます。 まず会社員の方から見ていきます。 彼らが入社してから退職するまでに会社から支払われるであろう給料の総額は、会社員のバランスシート上で資産として計上できるはずです。 これを便宜上「給料債権」と呼びます。 厳密には、給料債権は割引現在価値になるはずですが、ここでは概念さえ分かれば良いので、具体的な数字を出す必要はありません(以降も同様)。 一方で、会社に提供する労働は負債として計上されるはずです。 通常、労働はバランスシートには計上されないものですが、労働とは給料を得るために提供すべき義務なので、これは負債となります。 これを便宜上「労働債務」と呼びます。 上述のとおり、会社員は給料以上に働くため、原理的に「給料債権<労働債務」が成り立ちます。 負債が資産を上回っているため、この差額は純負債となります。

続いて、会社のバランスシートは、上記の会社員のバランシートをそのまま反転させたものになります。 会社が会社員に支払う給料の総額は、会社のバランスシート上で負債として計上できるはずです。 これを便宜上「給料債務」と呼びます。 一方で、会社が会社員から提供してもらう労働は資産として計上されるはずです。 これを便宜上「労働債権」と呼びます。 上述のとおり、原理的に「労働債権>給料債務」が成り立ち、この差額は純資産となります。 会社員の給料債権と会社の給料債務、会社員の労働債務と会社の労働債権、会社員の純負債と会社の純資産がそれぞれ対応しています。

さて、株式会社の純資産は、その会社の株式を所有している株主のものです(参照:2-6. 株式会社の働き)。 仮にある株主がこの会社の株式を全て持っているとすれば、会社の純資産の額と当該株主の純資産の額は同じになります。 その中には、上記の会社員の労働によって発生した純資産も含まれています。 その純資産にのみ着目すると、株主の純資産は会社を介して会社員からピンハネした労働の額を表しており、逆に会社員の純負債は会社を介して株主にピンハネされた労働の額を表しています。 つまり、会社員は会社を介して株主のために働いていることになります。 このように株式会社とは、株主(資本家)が会社員(労働者)を使って利益をあげ、株主自身の純資産を増やすためのツールなのです。

【補足】労働者である会社員は資本家である株主のために働くわけですが、現実はそれに留まりません。 一般に、会社員は自分のためではなく、まず株主のために働き、国のために働き、銀行のために働き、不動産業者や保険会社等のために働きます。 税金、ローンの支払い、保険料の支払い等があるためです。 ある意味で、会社員は生涯を通じて他人のために働くことになるため、自分の資産を作れず、いつまで経っても労働者の境遇から解放されない、とも言えます。

私たちは無意識に、より頑張って働いている者に、より多くのお金が分配されると考えがちです。 しかし実際には必ずしもそうなっておらず、それどころか大部分のお金は全く労働していない者に分配されます。 このピンハネシステムの下では「給料を増やすためにもっと働く」のは悪手です。 たしかに給料は多少増えるかもしれませんが、それ以上の労働を株主にピンハネされることになります。 また、資本主義とは直接関係ない話ですが、給料が増えると税金が更に上がってしまいます。

2004年、あるテレビ番組のニート特集で、ニートとされる青年が「働いたら負けかなと思ってる」と発言しました。 この言葉は当時話題を集めましたが、どちらかというと批判的、嘲笑的に受け止められました。 しかし、彼が発言した意図はともかく、この言葉は資本主義の本質を表しています。 資本主義とは、資本家が労働者による労働をピンハネする経済システムです。 そして上記のとおり、今日このピンハネは株式会社制度によって実現されています。 この制度の下では、会社員は構造的にピンハネされる側の存在なので、まさに「働いたら負け」であるといえます。


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