資本主義では資本を持つ資本家がどんどんお金持ちになります。 この資本主義の仕様は、今日では株式会社制度によって実現されています。 本節では、この株式会社制度について概観します。
株式会社制度とは、会社の純資産(資産-負債)を「株式」という証券に小分けし、これを株主が保有する形を取る制度です。 つまり、株主は株式を通じて企業の一部を所有します。 よく「会社は誰のものか」といった議論がなされますが、株式会社の場合、これは明らかに株主のものです。 そもそも株式会社制度は資本主義の仕様を実現する、あるいは資本主義の考え方を土台にした仕組みであり、資本家が株主に相当します。 資本主義が資本家のための経済体制であることと、株式会社制度が株主のための制度であることは、ほぼ同義と言えます。
株式会社制度では株主にとって有利な点が主に2つあります。 第一に、株主の責任は出資額に限定されます。 もし会社が潰れて債務超過に陥ったとしても、株主は債務超過分の責任までは求められず、最大でも出資額を失うだけで済みます。 第二に、株主は複数の会社の株式を持つことができます。 これによってリスクを分散することが可能となります。 株主はこの2点において守られています。
株式会社制度のメリットは株主だけが享受するに留まりません。 これらの仕組みによって、会社を率いる経営者は株主から出資を受け、よりリスクの高い事業に挑戦することができます。 つまり、この制度は株主を大きな損失から保護しつつ、経営者にはより多くのリスクテイクを促します。 とりわけ、ベンチャー精神溢れる(しかしお金だけが無い)経営者の新たなチャレンジを資金面から支える仕組みでもあります。 その結果、新たなモノやサービスが生まれ、地球全体の富の増加、ひいては豊かさの向上に貢献します。
【補足】日本の経営者、特に大企業の社長の多くは、株式会社制度が期待する上記の経営者像とはほとんど正反対の人間です。 彼らは一般にリスク回避的であり、強い安定志向の持ち主です。 子供の頃から勉強して偏差値の高い大学に入り、卒業後は安定していそうな大企業に入社します。 ベンチャー企業を起こそうなど以っての外であり、その性向はむしろ公務員志望者に近いくらいです。 そして、転職するというリスクは冒さず、内部昇進して社長になります。 実際、経団連の正副会長は全員サラリーマン経営者であり、転職経験者は一人も居ません。
世界初の株式会社は、1602年にオランダで設立された「東インド会社」です。 東インド会社の事業は多岐にわたりましたが、その中に植民地の経営がありました。 これはリスクの大きな新事業であったため、上記の特徴をもった株式会社制度が作られました。 今ではあらゆる事業が株式会社の形態で行われています。
地球上には様々な事業を行っている多くの株式会社があります。 それぞれの株式会社の目的は、各々の株式会社が定める経営理念の実現ということになるでしょう。 会社ごとに経営理念は異なりますが、その実現に先立って、全ての株式会社に共通する目的があります。 それは、利益を出すことです。
株式会社の一般的なお金の流れは以下のとおりです。 スタート時は、元手となるお金を自分で準備するか、株式を発行して株主からお金を集めます。 更にお金が必要な場合は誰かから借ります。 主な貸し手は銀行です。 あるいは、債券を発行して債権者からお金を集めます。 会社はこのようにして集めたお金を活用し、利益をあげることを目指します。 会社員に給料(費用)を払って働かせ、収益を上げていきます。 うまく利益(収益-費用)が出れば、それは内部留保として純資産にプラスされるか、配当として株主に支払われます。 ここまででお金の流れが一巡します。 会社がうまく行っている限り、このプロセスが繰り返され、純資産がどんどん大きくなっていきます。
【補足】株式投資に関する議論で、配当を出す企業と出さない企業のどちらが良いか、といった議論があります。 上記のお金の流れを見れば、結局どちらも同じであることが分かります。 株主に配られる配当金の原資は利益ですが、利益は配当されなければ純資産に組み入れられます。 純資産はもともと株主のものです。 ということは、配当が出ようが出まいが、利益はすべて株主にもたらされることが分かります。 ただし、配当金には税金がかかるため、その意味では配当を出さない企業の方が株主にとって望ましいかもしれません。
1602年に世界初の株式会社が誕生して以降、現在地球上には無数の株式会社があります。 それらは理念も業種も大きさも様々ですが、お金の流れはどの会社でも同じであり、利益の計上ひいては純資産の拡大が株式会社の目的です。 会社が利益を上げ続ける限り、純資産も増え続けて株主が継続的に儲かります。 資本主義の仕様、すなわち資本(株式)を持つ資本家が儲かるという仕組みは、このように株式会社制度によって実現されています。