当面のゴールに向けて、地球株だけを保有すれば良いと述べてきました。 現預金等のキャッシュを除けば、それ以外の資産はしばらく必要ありません。 本節では、その結論に至る考え方を述べます。
ポートフォリオの構築に関して、一般的には「人によって最適なポートフォリオは異なる」と考えられています。 「若者は大きなリスクを取れるので高収益を見込める銘柄群にすべき」「高齢者は債券かディフェンシブ株を主軸にすべき」「インカム重視の投資家であれば高配当株やリート(不動産投資信託)が適している」「米国株にしておけば間違いない」等々、様々なポートフォリオが考えられます。 そのため、個々人の状況に応じたポートフォリオを提案してくれるファイナンシャルプランナーもいます。 一方、リスク資産の最適なポートフォリオは実は誰にとっても同じである、という全く逆の考え方があります。 これは経済学者トービンが提唱した「2ファンド分離的理」と呼ばれるもので、学問的にはこちらの方が正しいです。
2ファンド分離定理は、リスク資産は市場ポートフォリオ以外に有り得ず、それと安全資産との比率でリスクを調整すれば良い、という極めてシンプルなものです。 リスクを大きく取りたいのであれば、リスク資産の中身を変えるのではなく、ただ市場ポートフォリオへの投資額を増やします。 逆にリスクを抑えたいのであれば同資産への投資額を減らす、つまり預金等の安全資産のままにしておけば良い、というだけです。 よって、この定理では次のステップでポートフォリオを構築します。
しかし、現実には市場ポートフォリオを作ることができません。 市場ポートフォリオはすべてのリスク資産から成るものですが、実際には投資不可能なリスク資産が存在しているためです。 そこで、次善策として今日地球上で広く投資可能なリスク資産を網羅した「地球ポートフォリオ」(以下、地球PF)を作ることを検討します(参照:3-4. 【参考】市場PF、地球PF、地球株)。
あるいは次のように考えても同じ結論になります。 お金は地球上で増え続け、地球上の各種資産に行き渡ります。 そうであれば、お金の行き先を可能な限り漏れなく捕捉するために、前もって地球全体の資産を極力保有しておくことが合理的です。 つまり、地球PFを持つべきということになります。
その観点から言えば、本来最も多く持つべき資産は債券です。 なぜなら、今日地球上で投資可能な資産のうち、債券の市場規模が最も大きいからです。 一方で、あなたが日本企業に勤める会社員であれば、おそらく債券の保有は不要です。 世界で最も解雇規制が厳しい日本企業に勤める会社員は、既に巨額の疑似債券を保有していると見なせるからです。
2ファンド分離定理の観点からすれば本来、それでもなお債券を最大限保有すべきかもしれません。 しかし、日本の会社員はあまりにも多くの疑似債券を保有しているため、ここは同定理を柔軟に活用します。
一般に日本の会社員はクビになりにくく、毎月ほぼ定額の給料を得られます。 これは本物の債券を保有している状況と良く似ています。 そこで、日本の会社員は疑似的な債券「会社員債券」を保有していると見なして、当該債券をポートフォリオに計上します。 会社員債券の価格は、退職までに得られる給料の割引現在価値の合計です。 そのため、一般に若ければ若いほど会社員債券の額が大きくなります。 会社の規模や計算に用いる割引率にも因りますが、大抵の場合、その額は優に1億円を超えます。 特に若い会社員であれば、ポートフォリオのほとんど全てが債券で占められると言っても良いでしょう。 会社員債券の詳細や、それが成立する背景については別途後述します。
地球上で債券の次に市場規模が大き資産クラスは株式です。 それ以外の資産クラスは微々たる割合を占めるに過ぎません。 ということは、あなたが日本企業に勤める会社員であり、まだ若いのであれば、当面は株式クラスだけを増やしていけば良く、その他の資産は不要です。 「3-1. 株式の実績」のとおり、現代では各種リスク資産の中でとりわけ株式の実績が優れています。 その上で、運用の成果は一般に「リスク資産額×保有期間」で決まることを述べました。 このリスク資産の中身は、どんな株式でも良いというわけではありません。 最適な株式ポートフォリオは「地球株」です(参照:3-6. 地球株のリスク)。 その意味でも、できるだけ早く地球株に投資し、できるだけ長く持ち続けた方が良いです。
【補足】いつまでも地球株だけを持っていれば良いという訳ではありません。 地球株である程度の財産を構築した後は、その他の資産クラスへの投資も必要になってきます。 その点については本章の最後の節で述べます。
いずれにしても会社員債券の存在を前提にすると、「ポートフォリオのほとんどが債券」という状況がしばらく続きます。 よって、本物の債券への投資は当面不要となります。 一方、債券や株式以外の資産クラスについては、その割合が非常に小さくなるため、やはり当面は投資不要となります。 したがって、最終的には地球PFを目指すものの、当面は債券の次に大きな市場規模を持つ株式、すなわち「地球株」のみを増やしていきます。