古代から現代にわたり、人類は常に地球上でお金を奪い合ってきました。 お金は大半の人間にとって命に関わるほど重要なものです。 実際に今でも、お金が無いことで自殺する人もいれば、殺人を犯す人もいます。 本節では、地球上で繰り広げられるお金の争奪戦をゲームと見なすことで全体を俯瞰するとともに、前章までの内容を振り返ります。
このゲームは何世代にもわたって行われており、現在のプレイヤー人口は80億人規模にまで達しています。 各プレイヤーはゲームフィールドの中でほぼ数十年間、お金を奪い合うことに奔走します。 ゲームフィールド内では、生活することを含め、何をするにもお金が必要です。 お金が無くなれば、原則としてゲームオーバーとなります。
ゲームの運営者は、お金を発行してゲームフィールドに供給します。 プレイヤーにとってお金は死活的に重要なものですが、運営者にとっては無制限に発行できる単なる情報に過ぎません。 運営者はプレイヤーとは根本的に立場が異なり、ゲームフィールドのお金を発行できる唯一の存在です。 もちろん、原則としてプレイヤーが運営者に成り代わることはできません。 運営者はプレイヤーにお金を「貸す」ことで、ゲームフィールドに新たなお金を供給します(参照:1-1. お金が生まれるとき)。 各プレイヤーは戦争や商売など色々な方法でゲームフィールド内のお金を奪い合います。 しかし、プレイヤー同士のやり取りではゲームフィールド全体のお金は増減しません。 ゲームフィールドのお金が増える唯一の経路は、運営者からプレイヤーへの貸出のみです(参照:1-4. 利用者全体のお金)。 逆に、ゲームフィールド全体のお金が減るのは、プレイヤーから運営者への返済によってのみです。
ゲームを一段とエキサイティングなものにしているのが「利子」です。 運営者からプレイヤーに貸し出されたお金には利子がつきます。 各プレイヤーは、元金に利子を加えた額のお金を運営者に返さなければなりません。 ところが、その時点でゲームフィールドには元金分のお金しかなく、利子分のお金は存在していません。 そのため、プレイヤー同士のお金の奪い合いは一層激しくなります(参照:1-7. 利子がもたらす競争と成長)。 では、そもそも全体として足りない利子分のお金はどこから調達すれば良いのでしょうか。 先に述べたとおり、新たなお金は運営者のみが発行でき、その供給方法は貸出のみです。 よって、プレイヤー全体としては利子分のお金もまた運営者から借りるしかありません(参照:1-9. 全体で常に足りないお金)。 そのお金にはまた利子がつきます。 こうして、ゲームフィールドのお金はどんどん増えていきます(参照:1-10. 地球上で増え続けるお金)。
ゲームフィールドでお金が増えていくといっても、各プレイヤーは何らかの方法でそのお金を獲得しなければなりません。 今日、一般にプレイヤーがお金を得る方法は以下の2つです。
ほとんどのプレイヤーは働いてお金を稼ぎます。 その方法しか知らないのです。 彼らは「ロウドウシャ」(労働者)と呼ばれます。 彼らの大半は「カブシキガイシャ」(株式会社)で働きます。 一方、ゲームフィールドには集金アイテムという、持っているだけでお金を集めてくれるモノがあります(参照:2-2. 資本家と集金アイテム)。 集金アイテムを持つことによって生計を立てているプレイヤーは「シホンカ」(資本家)と呼ばれます。 集金アイテムには様々な種類があり、世代と共にその流行も変わってきました(参照:2-3. 資本の変遷)。 最近流行している集金アイテムは「カブシキ」(株式)です。
集金アイテムを十分に保有している「シホンカ」は自ら働く必要がありません。 しかも、「ロウドウシャ」が働いて稼ぐお金と、集金アイテムがもたらすお金とでは、一般に後者の方がその増加率が大きいです(参照:2-4. 格差の要因)。 したがって、このゲームでは「シホンカ」の方が圧倒的に有利であり、両者の格差は時間の経過と共に拡大していきます。 そのため、ゲームフィールドのお金は一部のプレイヤーに大きく偏ります。 具体的には、今も昔も上位1割のプレイヤー群がゲームフィールド全体のお金の大半を所有しており、下位半分のプレイヤー群は全体の5%程度しか所有していません(参照:2-5. 地球上の富の偏り)。 ゲームバランスが非常に悪く、いわゆる「クソゲー」と言われても仕方ありません。
集金アイテムは、「ロウドウシャ」の労働を直接あるいは間接的にピンハネすることで持ち主にお金をもたらします。 たとえば「カブシキ」は、「カブシキガイシャ」を介して「ロウドウシャ」の労働をピンハネし、持ち主である「シホンカ」にお金をもたらす集金アイテムです(参照:2-7. 労働のピンハネ)。 このピンハネの仕組みは、ゲーム内に最初からビルトインされています。 プレイヤーの大部分は「ロウドウシャ」の子供として産まれ、やがて自身も学校を出て、親と同じく「ロウドウシャ」になります。 この構造はかなり前の世代から全く変わっていません(参照:2-9. 奴隷と会社員)。 そのため、一般的な「ロウドウシャ」は、お金を得るためには一生懸命働くしか無いと思いがちです。 しかし、その労働は原則として集金アイテムを持つ「シホンカ」にピンハネされてしまうのです。 つまり、このゲームで勝つためには、「一生懸命に働く」のではなく、集金アイテムを買い、それを増やしていくことが必要です。 要するに、「ロウドウシャ」から少しずつ「シホンカ」にシフトしていかなければなりません。
ほとんどの「ロウドウシャ」はこのルールに気が付きません。 というのも、彼らのバランスシートは、一見何の問題もないように見えるからです。 一般的なバランスシートには労働に関する内容が計上されていないため、自分がピンハネされていることに気が付きにくいのです(参照:2-8. 会社員のバランスシート)。 彼らはゲーム終了まで、つまり生涯にわたってお金に苦労することになります。 ほとんどのプレイヤーがこの状況に陥り、挽回できないまま一生を終えます。 一般に、お金が無ければ無いほど、働くことで得られる目先のお金に執着してしまい、ゲームの全体像を見失います。 逆説的なようですが、必要十分なお金を手に入れたプレイヤーだけが「お金への執着」から解放され、以降のゲームを悠々自適にプレイできるようになります。
ここまでの内容から分かるとおり、このゲームでプレイヤーがお金持ちになるために、プレイヤーの能力値や活動量は関係ありません。 ほとんどのプレイヤーがこの点を勘違いし、あたかも能力値や活動量と、得られるお金の量が完全に比例すると思い込んでいます。 しかし、このゲームで本当に重要なことは、プレイヤー自身の能力値や活動量ではなく、プレイヤーがどんな集金アイテムをどれだけ持っているか、単純にそれだけです。 どんなに無能なプレイヤーであっても、十分な集金アイテムを持ってさえいれば、何もせずとも自動的にお金が集まるため、嫌でもお金持ちになります。
各種の集金アイテムのうち、最近は「カブシキ」のパフォーマンスが圧倒的に優れています(参照:3-1. 株式の実績)。 実際、現代の勝ち組プレイヤーは、集金アイテムとして「カブシキ」を大量に保有しています。 「カブシキ」は、労働をピンハネする道具である「カブシキガイシャ」の所有権です。 しかし、今日の「カブシキガイシャ」は大量に存在しており、それぞれがゲームフィールド全域で競争を繰り広げています。 これでは、一体どの「カブシキガイシャ」が勝ち残るのか誰にも予想できません。 つまり、集金アイテムとしてどの「カブシキ」を保有すべきなのか、事前にはどのプレイヤーにも分かりません。 そのため、各種「カブシキ」を保有する大半のプレイヤーにとって、その成否はほとんど運任せになってしまっています(参照:3-7. 【参考】地球上の投資家)。
しかし、ゲームの仕様に基づいた攻略法があります。 まず、ゲームフィールドのお金は運営者が永続的に供給し続けるため、長期的に増え続けます(参照:1-10. 地球上で増え続けるお金)。 また、そのお金は集金アイテムの持ち主(今日では主に「カブシキ」の保有者)の元に集まります(参照:2-2. 資本家と集金アイテム)。 そして、お金も会社もすべてゲームフィールド内にあり、ゲームフィールドの外に出て行くことはありません。 よって、ゲームフィールド内の個々の「カブシキガイシャ」の勝ち負けはともかくとして、あくまで「カブシキガイシャ」全体としては成長し続けます。 そうであれば、プレイヤーはゲームフィールド内の全ての「カブシキ」を保有すれば、何も考えたり苦労したりすることなくお金を得られます。 これは、全ての「カブシキガイシャ」の親会社が発行する仮想の「カブシキ」を持つことで実現できます。 ゲームフィールドの別名は「チキュウ」(地球)です。 よって、この仮想「カブシキ」を、便宜上「チキュウカブ」(地球株)と呼びます(参照:3-3. 地球株式会社)。 つまり、このゲームにおいて再現性の高い攻略法は、特殊な集金アイテム「チキュウカブ」を可能な限り長く保有し続けることです。
労働してピンハネされ続けるプレイヤーから、「チキュウカブ」を保有して何もせずにお金を得ているプレイヤーまで、今日も様々なプレイヤーがゲームをプレイし続けています(参照:3-8. 誰がラクをしているのか)。
以上、現実の世界をゲームに見立てて全体を俯瞰しました。 上図は「はじめに」で用いた図にコメントを加えたものです(参照:はじめに - 本サイトの全体像)。 現実でも、借金と利子に基づいた通貨システムによって、地球上のあらゆる人がお金を奪い合うために過剰な競争を強いられます。 企業はより良いモノやサービスを生み出すために競争し、負けた企業は市場から退場します。 個人もまた、資本家であっても労働者であっても、互いに生き残りをかけて競争します。 ピンハネシステムの働きによって、資本家は労働者より有利な立場ですが、彼らとて大部分は資本家同士の競争にさらされます。 「地球株の保有」は、あらゆるレベルで競争が存在するこの世界で、完全に競争を避けながら合理的かつ継続的にお金を得られる攻略法です。 とはいえ、筆者も含めた大半の人は、通常は会社員という労働者であり、最初から資本家ではありません。 次節以降では、とりわけ無能な会社員が現実世界でどのように攻略法を実践していけば良いのかを見ていきます。